人々の生活に定着しつつあるエコロジーの精神は、葬儀の世界にも影響を与えています。
そんな中、自然に優しく、地球を汚染しない埋葬方法として注目を集めているのがフリーズドライ葬です。
スウェーデンで生まれたSDGsに配慮したこの葬儀方法は、どのように故人を送り出すのでしょうか。
この記事では、フリーズドライ葬の概要や、メリットについて解説します。
フリーズドライ葬(プロメッション)とは?
フリーズドライ葬(プロメッション)とは、1999年に北欧スウェーデンの生物学者が発明したエコ葬です。
フリーズドライ葬は、まず-18度に保った遺体を棺に納め、-196度の液体窒素で凍結することから始まります。
完全に凍結した遺体を棺ごと振動させ、細かく崩した後にフリーズドライ機で乾燥させ、粉末状にします。
体重の約30%程度の重量となった遺体は小さな生分解性の棺に入れられ、約30〜50cm程度の土中に埋葬されます。
その後、埋葬された遺体は、土中のバクテリアや微生物の力で分解され、約1年後には腐植土として大地に還るのです。
考案者はスウェーデンの生物学者
フリーズドライ葬の発明者であるスザンヌ・ウィーグ・マサクは、幼少期より植物を育てることを楽しむ子どもでした。
その経験から、土葬による土壌汚染を解決することが必要だと感じた彼女は、ヨーテボリ大学で生物学を専攻。
20年の時間をかけて、フリーズドライ葬の開発に至ります。
スザンヌ・ウィーグ・マサクは「人間は自然の一部であり、亡くなった後は土に還ることが本来の在り方である」という考えのもと、フリーズドライ葬の実用化を目指しています。
彼女は、もともとの「遺体を堆肥化できる」という考え方は生物学者であれば誰でも理解しているとも語っています。
スザンヌ・ウィーグ・マサクは2019年に亡くなりましたが、最後までフリーズドライ葬への理解を深めるために尽力しました。
「プロメッサ・オーガニック社」の設立
スザンヌ・ウィーグ・マサクがフリーズドライ葬を推進するプロメッサ・オーガニック社を設立したのは、2001年のことです。
同社は「死者を、尊厳ある愛情を込めた方法でケアする」という理念のもと、フリーズドライ葬を啓蒙しています。
設立と同年より、埋葬施設の建設計画が進められましたが、法的な問題で政府の許可が下りず、その後2009年10月に事業化が決定します。
このように、国内施設の第1号ができるまでに約10年もの月日がかかったフリーズドライ葬ですが、スウェーデン国内では多くの都市が同社の活動に関心を示しています。
賛同者「プロメッサフレンド」
プロメッサ・オーガニック社では、現在世界中から無記名登録の賛同者を募っています。
積極的な啓蒙活動の結果、2017年の段階で、プロメッサフレンドと呼ばれる賛同者は世界で3,500人を超えました。
アジア地域では韓国からの関心が強く、日本からもわずかですが賛同者が登録しています。
フリーズドライ葬が究極のエコ葬として注目される理由
このようなフリーズドライ葬がエコ葬として注目されるのはどのような理由があるからでしょうか?
ここでは2つご紹介します。
火葬・土葬の課題を解決
フリーズドライ葬のメリットは、環境汚染を限りなく減らせることです。
現在、一般的におこなわれている火葬や土葬は、CO2排出や土壌汚染などさまざまな課題があります。
また、広い土地を確保し墓地を作るためには、自然を開拓しなければなりません。
一方で、フリーズドライ葬で処理された遺体は、大地に還るため土壌を汚染せず、広い土地も必要としません。
人が亡くなることで起きるさまざまな課題を解決し、自然と一体化できる埋葬方法なのです。
コストがかからない
全体的なコストが安く済むこともフリーズドライ葬の大きなメリットです。
お墓を建てて埋葬するには、墓地の購入や埋葬にかかる費用だけでなく、代々管理していくための費用も発生します。
一方で、フリーズドライ葬は約3万〜4万円程度と、非常に安価でおこなえるのです。
なお、この費用は葬儀料金が安いスウェーデンでの相場であり、他国で導入された際には価格が異なる可能性があります。
とはいえ、一つの墓地を維持していくコストに比べれば、圧倒的に安い値段で故人を送り出せるでしょう。
フリーズドライ葬は日本でも実現する?
現代の日本で現在おこなえる埋葬方法は、火葬か土葬です。
ほとんどの場合は火葬が用いられますが、許可があれば遺体をそのまま埋める土葬をおこなうことも可能です。
ただし、自治体によっては土葬そのものを禁止していたり、掘る深さに厳しい規定を設けていたりします。
これらの法律が関わってくるため、現状、日本国内でフリーズドライ葬をおこなうことは難しい状況です。
しかし、今後SDGsに取り組んでいく過程でフリーズドライ葬が導入される可能性は十分あり得るでしょう。