怪談vol.3:夜勤で遭遇したモノ

この話が噓か真か…。どう思うかはあなた次第です…。

ひとり暮らしのアパートで生活している大学生の渡辺拓海(仮名)は、コンビニでアルバイトをしていた。

平日のシフトは夕勤で、土日どちらかの場合は夜勤になることが多く、この日も土曜日で夜勤のシフトに入っていた

これは夜勤で起こった怪異の物語。

夜中の時間帯に入ると、店内は静まりかえっていた。

客もほとんど来ない。

拓海はバックヤードの椅子に座り、監視カメラのモニターを見ながらぼんやりと時間を過ごしていた

客が来ればレジに立つだけなので、今のところはそのまま休憩している形だ。

モニターに映る店内には、棚に並んだ商品や、ポップがちらりと見え、時折動くのは天井につけた商品紹介の紙が少しずつ揺れるだけだった。

その静寂の中で、拓海はふと目を閉じ、休息を取ろうとした。

そのとき、モニターに映る画面の中に、一人の男性が映った

「あ、お客さん来た」とAはつぶやき、モニターを見ながら立ち上がった。

しかし、映る男性を見て少し違和感があった。

今はまだ9月の初めでまだ暑い日が続いているはずだが、その男性はボーダー柄の長袖にジーンズを履いている

まるで気温が落ち着いた秋を感じさせる装いを見て、拓海は妙に引っかかった。

(まぁ、そんな人もいるか)と思いながらも、よくモニターに映る姿を見ると、より一層彼が不気味に見えてきた。

その男性は、店内の入口にから動こうとせず、姿勢を硬直させながら無表情でじっと前を見て立っている

少なくとも普通ではないその姿勢に、まるで誰かを待っているような気がしてきて、胸のあたりに冷たい感覚が走った。

「と、とりあえずレジに行こう」と拓海は決心して、椅子から立ち上がった。

怖くないわけではなかったが、その男性がどんな人物なのか確認することで少しで落ち着きたかったのだ。

レジに向かうながら入口を見ると、男性は姿を消していた

「え?なんで?どこ行った?

このコンビニにはお客さん用のトイレはなく、裏にスタッフ専用のトイレがあるだけ

ましてや、入口を出入りした時に流れるBGMも聴こえていない

(レジに向かう間に帰った…?音は聞こえなかったぞ…)

何ともいえない不安感に包まれたが、ひとまずバックヤードに戻ることにした。

いけないもの見ちゃったかなんて考えながら椅子に座って再びモニターを見ると、彼は目を疑った。

いるのだ。入口に。

しかも、こちらに顔を向けながら。

見た目も先ほどと打って変わって、全身が真っ黒。

「は…?いや、え、え…?な、なにこいつ…」

とても人とは思えないその姿に、今まで感じたことのない恐怖に飲み込まれた彼は、金縛りにかかったように固まった。

拓海はすぐに逃げようと考えたが、その黒い男は店の入り口でこちらを見ながら立っている

まるでカメラではなくこちらを覗くかのように

拓海はなんとか今の状況を打破しようと色々考えていると、その男が前を向いて進みだした。

彼が店内を歩き始めたため、別のカメラモニターにも映っている。

黒い人影が歩く姿に釘付けになって見ていると拓海は気づいてしまった

「こっちに来てる!?」

このままではバックヤードに追い詰められる、それだけはやばい!

そう思ったAは、黒い影がバックヤードにたどり着く前にここを出なければ何があるかわからない

扉までダッシュして、店内に出た。

そのまま出口まで向かおうとした所で、拓海の右耳に低い男性の声で

「おい」

反射的に振り向いてしまった拓海は、鼻と鼻がくっつくほどの距離に立つ黒い影と目が合った

(やばい!!!どうする!!どうするっ!!…)

心臓の鼓動音しか聴こえない程に脈打っているのが分かる。

なんとかこの状況から脱しなければならないが、恐怖と焦りが頭を支配して全く動けない

そんな状況が何秒程か続くと、その黒い男がAに向かって

「お前じゃないな。良かったな、お前じゃなくて。」

(…っ?!?!?

言っていることの意味が分からず、そのまま硬直していると、黒い男性は霞のように消えていった

そんな状況に拓海は、その場に立ち尽くすしかできなかった。

あの黒い影はなんだったのか。

何故最初は男性の姿だったのか。

お前じゃないとは、良かったなとは。

もし自分だったらどうなっていたか。

何が何だかは今もわからないままでいるが、命は助かったのだろう。

もし黒い影を見かけたら、関わらないほうがいいだろう。

「触らぬ神に祟りなし」なのだ…。