この話が噓か真か…。どう思うかはあなた次第です…。
東京の喧騒を避けるように、田村翔太(仮名)は一人、アパートのドアを開けた。大学を卒業し、就職先も決まり、上京してからまだ日が浅い。
最初は不安もあったが、何より家賃が安く、駅からも徒歩圏内ということで、このアパートに決めた。
アパートの管理人からは特に何も聞かされていなかったが、契約書に「心理的瑕疵物件」という文言があるのを見て、少し気になった。
しかし、仕事のことを考えると、そんなことで立ち止まる余裕はなかった。
翔太にとってはただの物件、ただの寝床に過ぎない。
部屋は少し古びていたが、必要最低限の設備は整っていた。
特に不満もなく、初めの1週間は平穏無事に過ぎていった。
しかし、その後から、何かが変わり始めた。
最初に異変を感じたのは、夜中に突然目が覚めたことだった。
時計を見てみると、午前2時を過ぎていた。
だが、その時に感じたのはただの目覚めではなかった。
部屋の隅から、何かを感じるのだ。
誰かが見ているような、息遣いが聞こえるような気がした。
翔太は気のせいだと思い込もうとしたが、何度もそのようなことが続いた。
部屋の中で微かに物音がすることもあった。
時には床が軋む音、時には壁を叩くような音。
誰かが部屋の中を歩き回っているような気がして、翔太は眠れなくなった。
次第に、奇妙な現象は増していった。
ある日、帰宅すると部屋の中に見慣れない物が置かれているのに気づいた。
小さな人形だった。
最初は誰かのいたずらかと思ったが、上京して間もないので家に訪れる者はいない。
誰かが置いたというのは考えられない。
結局その人形はどこから来たのか、どうして部屋に置かれたのか、答えは分からないままだった。
さらにその日の晩、寝ているときに夢の中で何かを引きずる音が聞こえてきた。
夢の中では、長い黒髪の姿が見えた。
彼女はどこかに消えてしまったが、翔太はその後もその夢に何度も悩まされた。
ある晩、恐怖におびえながらも眠ろうとして目をつぶった時、枕元に気配を感じた。
夢の女性に違いない。
起きている事に気づかれてはいけない気がして、翔太は目を閉じ続けた。
すると女性は、耳元まで顔を近づけて何かを呟き始めた。
何を言っているのか分からない、しかし目を閉じているため意識は女性の声に向いている。
(何て言っているんだ…?)。
恐怖心に駆られる中、この女性が呟き続けていることがどうしても気になった。
そしてようやく聴こえてきたのは
「見えてるだろ見えてるだろ見えてるだろ見えてるだろ見えてるだろ見えてるだろ」
恐怖に耐えきれず、とうとう翔太は部屋を飛び出した。
後日、管理人に尋ねてみると、少しだけ驚いた顔をした後、「ああ、その部屋か」と言った。
どうやら、その部屋にはなにかあったらしいが、詳細については教えてくれなかった。
翔太はすぐに引っ越すことを決心して部屋を引き払う準備をしていると、突然ドアが勢いよく開き、誰かが入ってきた。
だが、部屋には誰もいなかった。
翔太は恐怖と混乱の中で、すぐに準備を終わらせて、逃げるように部屋を出た。
翌日、翔太は部屋を引き払ったが、あの夜の出来事はどうしても忘れられなかった。
新しいアパートに引っ越し、仕事も順調に進んでいたが、たまにふと思い出すことがある。
あの部屋、あの人形、そして耳に残る引きずる音。
結局あの部屋で何が起こり、どんな出来事があったのか、人形は何だったのか。
分からないことしかないが、翔太は今でも時折、背後に何かの気配を感じることがあるのだ。
あのアパートに住んでいた時から憑いてきたナニカなのか。
答えは分からない。
分かりたくもない。