インドには古くから独自の文化や風習が存在しています。
その中でも、寡婦が亡き夫と共に焼身自殺をする「サティー(サティ)」と呼ばれる風習は、とくに大きな議論を巻き起こしてきました。
この風習は宗教的な背景や社会的な価値観が影響したもので、時代を経て大きく変化してきました。
本記事では、サティーの背景・実際に起きた事件・現代の様子、さらにはこの風習が描かれた映画までを詳しく紹介します。
インドの悪しき風習「サティー」とは
サティーは、寡婦が亡き夫の火葬の炎に飛び込むことを表し、「貞節な女性」として讃えられるための大切な儀式であるとされてきました。
この風習は古代インドの宗教観に基づき、夫婦の死後の絆を強調するものでしたが、実際には女性の人権が大きく損なわれる慣習でした。
元々はヒンドゥー教の特定の地域で行われていたものですが、やがて社会全体に広がり19世紀まで根強く続いていたのです。
サティー問題の背景
サティーの背景には、寡婦差別・経済的問題・宗教的慣習が深く関わっています。
ここでは、寡婦が不吉とされた理由やダウリー問題など、サティーを助長した要因を見ていきましょう。
根強い寡婦差別
インド社会では寡婦は「不吉な存在」とされ、家庭や地域社会から差別的な扱いを受けることが多々ありました。
寡婦が再婚することは長い間禁止されており、その生涯を禁欲的に過ごすことが求められていたのです。
このような価値観の中で、夫と共に死を選ぶことが「理想の姿」として美化されてしまいました。
サティーがおこなわれてきた背景には、寡婦の生存価値を否定する文化が深く根付いていたことが関係すると言えます。
ダウリー(結婚持参金)問題
結婚時に花嫁側が多額の持参金(ダウリー)を提供する習慣も、サティーを助長した一因とされています。
夫が亡くなった後、持参金を手放さずに済むように宗教的な正当性を盾にして、寡婦をサティーに追い込むケースも少なくなかったのでしょう。
こうした経済的な背景も、サティーの問題を複雑にしていきました。
サティーが引き起こした忌まわしき事件
サティーは、多くの悲劇的な事件を引き起こしてきました。
ここでは、象徴的な「ループ・カンワール事件」や「老女の寡婦殉死事件」を通じ、サティーの持つ負の側面を考察します。
1987年|ループ・カンワール事件
インド北部のラージャスターン州で、当時18歳のループ・カンワールという若い女性が、強制的に夫の火葬の炎に身を投じさせられる事件が発生しました。
この事件はインド全土を震撼させ、サティーの問題を再び社会の表面に押し出したのです。
一部の地域では彼女を「女神」として祀る動きすら見られましたが、同時にサティー廃止の必要性を訴える声が高まりました。
2008年|老女の寡婦殉死事件
ラージャスターン州で再び、75歳の女性が夫の遺体と共に焼身自殺する事件が報告されました。
この事件では、地域社会が一体となって彼女の行為を支援したとの報告もあり、サティーが依然として一部地域で支持されている現状が浮き彫りになったのです。
サティーは現代では禁止されている
サティーは現在、インド国内で厳しく禁止されています。
かつて社会全体に深く根付いていたこの風習も、法整備や改革運動の影響で減少しました。
しかし、一部地域では文化的な余韻がいまだに残っているのが現状です。
サティー廃止運動に尽力したラームモーハン・ローイ
19世紀、ヒンドゥー教改革者ラームモーハン・ローイは、サティーが宗教的根拠を持たない非人道的な慣習であると批判し、その廃止運動を展開しました。
彼の活動は、女性の人権を取り戻すための大きな第一歩となったのです。
1829年サティー廃止令が発令される
1829年、ベンガル総督ウィリアム・ベンティンクにより、サティーが公式に禁止されました。
その後は法律が改正されるたびに罰則が強化され、サティーをおこなうこと自体はもちろん、強要や美化も違法となったのです。
現在では、サティーは法律で厳しく禁止されていますが、一部の地域では依然としてその影響が残っています。
サティーなどインドの風習が描かれた映画
映画は、社会問題や文化の継承を描く媒体として大きな役割を果たしています。
ここでは、サティーの背景や問題点が描かれた映画を見ていきましょう。
Mangal Pandey: The Rising
19世紀のインド独立運動を描いたこの映画では、サティーの風習が強要される場面が登場します。
イギリス人が寡婦を救い出すストーリーが織り込まれ、当時の社会問題を浮き彫りにしつつ、自由と平等への希望を示唆しているのも特徴的。
また、植民地支配下の社会的矛盾を背景に、個人の勇気と抵抗を強調する作品です。
Water
幼い寡婦が「寡婦の家」で、差別や抑圧を受ける様子を描いた映画です。
寡婦差別や再婚禁止といった問題を鋭く描写し、国際的に高く評価されました。
作品全体を通じて、女性たちの苦難とその中での希望が繊細に表現されています。
Baabul
現代のインドを舞台に、サティーが残した価値観を「現代のサティー」として批判し、寡婦再婚の可能性をテーマにしています。
家族の絆や社会の中での女性の位置づけを問い直す、感動的な映画です。
さらに、世代間の価値観の衝突と和解を通して、女性の人生に対する新しい視点を問いかけています。
あなたの名前を呼べたなら
貧困や差別に苦しむ中で、女性の自立を目指す物語。
この映画はインド社会における古い価値観と新しい潮流のせめぎ合いを描いています。
主人公の成長を通して、変化への希望と勇気を描くとともに、インド映画ならではの音楽と映像美が、ストーリーにさらなる深みを与えている映画です。